東北大学大学院国際文化研究科 教授 青木俊明

研究内容

心理学の理論に基づいた都市環境政策の提案

近年、“sustainable development”という言葉の普及が示すように、地球環境の保全は世界的に重要視されています。地球環境の保全だけが問題であれば、私たちの生活水準を江戸時代にまで後退させれば済むことです。しかし、現実問題として、IT機器を日常的に利用し、信頼性の高いインフラに囲まれ、利便性の高い生活を享受している私たちが、生活水準を後退させることはほぼ不可能でしょう。では、どうすれば、良いのでしょうか。

低環境負荷社会に移行するためには、様々な技術革新も欠かせませんが、それ以上に私たちの意識改革が必要です。すなわち、「個々人が、できる範囲で無駄な消費を抑え、再利用を徹底すること」が極めて重要だと考えます。

この「無駄な消費の抑制=生活の効率化」は、日常の生活様式のみならず、都市構造や社会システムまで含め、社会のあらゆる場面で考えていく必要があります。その際、節約を強要し、生活満足感を低下させるのではなく、自発的に生活が効率化され、QoL(Quality of Life)が維持・向上するような策を考えていかねばなりません。

当研究室では、このような問題意識の下で環境政策や都市政策の研究を行っています。こういう分野は初めてであっても、熱意のある方は大歓迎です。

具体的な研究課題

1. 社会的合意形成と協力行動の促進

環境政策や都市政策などの公共政策では、社会的ジレンマ状況(社会や集団の利益を高めるために、個人に負担が生じる状況)のなかで人々に協力を求めることが少なくありません。しかし、そこでの合意や協力が得られなければ、問題は改善しません。当研究室では、社会基盤整備を題材に、合意に至る心理メカニズムや協力行動の発生メカニズムを研究しています。

研究キーワード:社会的ジレンマ、合意形成、協力行動、ソーシャル・キャピタル、公正

2. 主観的幸福感の改善

物心ともに豊かな社会を構築するためには、“幸福感の醸成メカニズム”の理解が不可欠です。所有するモノの質や量がある程度以上になれば、それらが高まっても幸福感はさほど高まりません。その一方で、断捨離にみられるように、モノが減ることで幸福感が高まることすらあるので、幸福感の問題は非常に複雑です。本研究では、幸福感が醸成されるメカニズムを明らかにし、低環境負荷型社会に移行する中でそれを低下させない方法を提案することを目指します。

研究キーワード:主観的幸福感、QoL、生活の質

3. 都市構造のコンパクト化

「郊外に一戸建て住宅を構え、日々の移動は自動車で」というライフスタイルは、大都市では一般的なものと言えます。しかし、このようなライフスタイルの普及によって、私たちの生活が環境に与える負荷も増大しています。もちろん、一戸建て住宅に住むことは悪いことではありませんが、都市全体としての環境負荷の軽減策を考える必要があります。本研究では、主に居住地選択の心理に焦点を当て、土地を有効かつ効率的に利用する方法を探ります。

研究キーワード:居住地選択、住居形態選択、意思決定、郊外化

4. 中心市街地の活性化

中心市街地が魅力的でなければ、“街なか”に住みたいという人は増えません。中心部に住む人が増えなければ、都市もコンパクトにはなりません。努力しない店舗の淘汰はやむなしと思いますが、シャッター街になっては意味がありません。当研究室では、消費者心理という観点から、中心市街地のあり方や活性化の方向についても研究しています。

研究キーワード:中心市街地活性化、消費者行動、購買行動、非日常、自己呈示

5. 無意識下の態度・行動変容に関する研究

サブリミナル効果とは、知覚されない刺激が、無意識のうちに人の態度や行動に影響を生じさせることを指しますが、知覚できるように提示された刺激でも同様の効果が生じている可能性があります。例えば、ドライバーに対して、歩行者などへの注意を促す“カラー舗装”の区間を頻繁に通行していると、非補色路でも交通安全意識が高まり、安全運転を心掛けるようになります。同様の効果を持つと思われるものが少なくないことを考えれば、私たちは無意識のうちに特定の行動を行っている可能性があります。このような現象の理論化を行い、その影響を社会に役立つように活用する方法についても研究しています。

研究キーワード:無意識下、模倣、非知覚、ブランド